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第290回 非合理の合理精神

 熊本地方で震度7以上の地震が数回発生しました。住宅の被害は一部破損を含め18万5231棟にもなりました。この5月14日に地には50名近い犠牲者を悼み黙祷が捧げられました。発生後1ヶ月が過ぎさりました。文化財である熊本城の大きな被害が発表されました。石垣の粗積みは計算された合理性をもち、自然災害に対する知恵をしぼった姿で、それは実証されました。日本の家屋は自身を覚悟のうえで造られたものと考えたいものです。要約していえば、建てた直後から揺れるように出来ているのです。日本建築の大規模建物も初めから木材をつなぐのにほとんどクギを使いません。穴をあけてホゾを差し込み、叩き込んでつなぐ。骨格自体を柔構造に組み立てておいて、建物の上部に重心を置き、さらに重い瓦をのせる。年月が経って、木材が乾燥してしまうから、継ぎ目にゆるみが出来て、そのゆるみがエネルギーを分散吸収してしまう。だから、激しく揺れても、容易に倒壊しないのです。今回は新耐震基準で建てられた家の30%は倒壊しました。河川や扇状地を埋め立てた地盤の弱い地域で液状化の現象も考えられます。東大寺の大仏殿は一度も倒れたことがないのはなぜか。その答えは瓦が傾いた方向にずれて落下し重量を軽くするからです。あとは日本建築のゆるみと力と分散、そして木材の性質によります。城郭技術の石垣は、すき間をあけて築いてあります。それは稚拙だからではありません。わざわざ粗積みしてあるのです。石垣を築く場合、西洋人はそれにかかる力を撥ね返すだけ強力なものを築きます。自然の力を征服しうる自信があるからでしょう。日本人の場合は自然の力が人力を超えることをはじめから予測しています。石垣を粗積みするのは水を抜くという利点もありますが、地震や石積みも寺勾配できれいな流れを出だして、隅には日の見櫓を建てて重量の配分をしています。これは、「非合理の合理精神」と呼ばれる知恵の典型です。だから建設業は楽しくおもしろいのです。
 ご安全に。

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