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第15回「ならば読んでみよう」

 学生時代に教養部の先生からこう言われたことがあります。「社会人になると色々忙しくなるから、例えばトルストイの『アンナ・カレーニナ』とかの長編作品を読むなんて難しくなるよ」。
 学生のうちはそれなりに時間があるので、私とて長短編を問わず古今東西の古典やら専門書を結構読んだものですが、その先生が言いたかったことは、社会に出れば朝から晩まで仕事に追われ、あとは疲れて帰宅するだけ、家族がいたらあれやこれやで読書の時間もなくなるだろう、短編ならまだしも長編はとてもとても読んでいられないのが普通だよ、ということだったのでしょう。
 この話を聞いて、その通りと同感する人もいれば、そんなことはないだろうと異を唱える人もいるはずです。
 私は後者の方で、「そんなに難しいと言うのならば、敢えて長編を読んでみようではないか」と考え、社会人になってからも数々の長編にチャレンジしてきました。
 前もって確認しておきますが、読書とは、読んだ作品の長短、読んだ冊数、読んだ速度などを競って評価される事柄ではありません。また、これを読めと強制されたり、読書感想文を書かなければならないからという義務感で嫌々仕方なしに読むなどという場合に読書の楽しみなんぞあろうはずはありません。好きな時に、好きな本を、好きな様に読むに限ります。(さはさりながら、万巻の駄作よりも1冊の名著に巡り合い、それを何度も何度も味わいながら読むことこそ最上であるとは言え、名著に出会うのになかなか偶然という訳にはいかず、数多の本を読むことによってこそその出会いが可能になるというジレンマにもぶち当たるのですけれども・・・・・・。)
 とにもかくにも読んで楽しもうということで、最近読了したのが『謹訳 源氏物語』(全10巻 祥伝社刊)です。あの平安期の古典『源氏物語』を作家で国文学者の林望が現代語訳したもので、なかなか読みごたえがありました。補注はなく、すべて本文の中に織り込まれており、正確・簡潔かつ現代人の心の機微に触れる華麗なる訳文は、とても読みやすく、古典『源氏』の世界をとても身近なものにしてくれました。
 古典『源氏』原文の雰囲気をそのままに伝える流麗なる現代語訳の決定版はと言えば、私は今でも迷うことなく谷崎潤一郎によるものを挙げますが、林望の『謹訳』もそれに並ぶ名訳だと言えるでしょう。
 古典は原文で読むべし・・・・・・。しかし、浅学非才な私には、超難解な古典『源氏』を原文で読破するなど至難の業。そこで現代語訳を通じて、大長編の世界へ突入したのです。
 「桐壷」から「夢浮橋」まで全54帖、光源氏の物語と薫の物語とから成る『源氏物語』は、単なる恋愛小説ではなく、美しい自然の春夏秋冬、人々の細やかな心情、夫婦関係や親子関係、雅やかな王朝文化を始めとする当時の社会風俗、権力闘争、教育問題、怨霊・物の怪の類等々、ありとあらゆる事象を、どこまでも深い情趣、やり切れぬ無常感一杯に描き出した物語文学の傑作なのです。このような作品が平安時代に存在したことに先ずは素直に驚くべきでしょう。
 本居宣長は、『古事記』だけでなく『源氏物語』の研究でも有名で、かの「もののあはれ」論を展開したことで知られています。(「もののあはれ」の話はまた別の機会にしたいと思います。)宣長さんは『源氏物語』をして「やまともろこし、いにしへ今ゆくさきにも、たぐふべきふみはあらじとぞおぼゆる」作品、つまり世界中で空前絶後の傑作だと絶賛しています。
 千年の時を超えて、日本人のみならず多くの国の人々にも読み継がれてきた『源氏物語』は、まさに古典中の古典、長編中の長編に列せられるべきでしょうし、それ故にその読後の達成感、充実感それに満足感は一層大きなものとなるのです。紫式部に感謝しなければなりません。
 事の大小に関係なく、何事かに挑戦する、進取果敢にチャレンジするという前向きな姿勢は、日々の生活を活力あるものにしてくれると思います。勿論、現状無視の蛮勇ではいけませんが、挑み続ければ、例え歩は小さくとも前進できるはずです。その結果、自分自身にしっかりとした年輪が美しく刻み込まれるものと考えます。
 長編への挑戦など大した挑戦ではないかもしれません。しかし、私は今後もこの「ささやかな」挑戦を続けていくつもりです。
 さて、半田の矢勝川では彼岸花がきれいに咲き、赤とんぼが飛び交う季節となりました。いつの間にか年末を意識し始めるようになるのも、1年の短さ故でしょうか。
 まさに季節の変わり目です。その上、昨今の気象現象は激烈化しており、大雨・暴風・雷・竜巻等々に翻弄されています。地震の心配もしなければなりません。いずれにしても、日頃からのイメージトレーニングに加えて、早め早めの情報収集と対策を心がけ、安全最重視で作業に取り組むようにしてください。
 体調管理に気を付けて。ご安全に。

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