IWABEメッセージ
第16回「ゲネラルパウゼ」
ゲネラルパウゼ(Generalpause ドイツ語)とは、音楽用語で「総休止」、つまり管弦楽曲などで総ての楽器が演奏を休止することで、曲の流れを一旦止める効果的な技法です。
考えてみれば、最近はコンサートに行かなくなりました。子供と一緒というのもまだどうかと思いますし、さりとて音楽好きの妻を残して1人でという訳にもいかず、この頃ではせいぜいのところCDを聴いて芸術の秋を過ごしています。
そのCDですら、SP盤、LP盤の次の時代を行く先進のデジタル媒体ともてはやされていたのが、いつの間にやらコンテンツだけのダウンロードで満足される世の中となってしまい、いわゆる「レコード屋さん」とか「CDショップ」という言葉とともにフェードアウトしつつあるという寂しい状況に直面しています。根強い懐古趣味のマニアだけでは、この大きな潮流に抗うことはできないのでしょう。
それでも集めに集めたCDの中から、お気に入りの何枚かをピックアップし、周囲に配慮しつつもそれなりの音量で再生します。指揮者では、ウィレム・メンゲルベルク、カルロス・クライバー、パーヴォ・ヤルヴィのものをよく聴きますが、どれもテンポが変幻自在に操られ、推進力と躍動感に溢れた名演ばかりです。様々な作曲家の様々な名曲を様々な指揮者によって統率された様々なオーケストラが演奏する、そのハーモニーに耳を傾けて酔い痴れるのは秋の夜のささやかな楽しみ、愉悦と言えます。
ゲネラルパウゼは曲の終わりではなく、その後に新しい展開が続きます。時に迫力ある全奏が爆発的に奏でられることもあります。だからこそゲネラルパウゼは、次の変化を大いに期待させる(またそのためのエネルギーを蓄積する)極めて意味のある休止であると言えるのです。
先日「第8回はんだ山車まつり」が開催されました。半田市内31台の山車が一堂に集結する5年に1度の祭典には、好天にも恵まれ、2日間で約55万人もの観光客が訪れたと発表されています。
驚くべきことは、祭りの翌日には、街中どこを見てもゴミ1つ落ちていないほどきれいに整理清掃されていたということです。「本当に昨日まで祭りが開催されていたのか」と感じるほど見事に街は日常の姿に戻っていました。主催者・関係者の心意気を見た思いがします。この日常と非日常のメリハリの効いた線引き・区別こそが次回の祭りの開催を熱望・支援するムードを醸成することに繋がるに違いありません。祭りは伝統であり、伝統は続きます。終わりではないのです。日常生活に戻った市民は、また5年後に向けて充電を始めます。いわば5年間のゲネラルパウゼです。
1つの継続する活動の中に織り込まれるゲネラルパウゼを想起すると、建設工事における竣工式を思い出します。
その工事としては、竣工引渡をもって終了します。しかし、企業はゴーイング・コンサーンであり、企業も従業員もエンドレスに技術を磨き、信用と信頼をより強固なものにして、さらなる高みを目指して挑戦し続けなければなりません。つまり竣工引渡というのは、1つの工事の結了であり、同時に次の工事のスタート、次なる挑戦を心に期する節目なのです。先般あった竣工式において、神事に続き、ご神酒を拝戴するという一連の儀式を経て感じたことは、先ずは無事の竣工を寿ぐ喜び、次いで手塩にかけて作り上げた建物をお引渡しすることへの一抹の寂しさ、それとやはり次なる工事に挑む決意でした。
工事と工事の間の節目は、完全なる終了点や断絶などではなく、新たなる前進のための端緒であると捉えるべきです。竣工式は、建設という楽譜に記されたゲネラルパウゼの記号に他ならないでしょう。このゲネラルパウゼに引き続いて奏でられる音楽の調べはどのようなものになるのでしょうか。これまでに身に付けた知識技量を存分に発揮するだけでなく、より良い施工を目指して、積極果敢に日々職務に邁進するというその姿は、複雑なテンポや音色を絶妙な技巧をもって表現し、クライマックスに向けて美しく華麗な響きを現出させようとする演奏家のそれを彷彿とさせます。しかも、「ものづくりの仕事」である建設という楽曲には、コーダ(coda イタリア語)、即ち「終結部」は無いのです。総ては繋がり、継続していきます。
様々な専門工事業者の皆さんが、作業所長という指揮者の下に結束して竣工を目指す作業現場は、まさにオーケストラそのものです。作業現場だけでなく、会社組織もオーケストラのようなものです。時にゲネラルパウゼを組み込みながら、観客を魅了する演奏に全身全霊を傾け、その結果多くの感動を産むことができれば音楽家(建設人)冥利に尽きるというものでしょう。
音楽と建設。その一風変わったように見える連関性に思いを致すのも、秋の夜長のなせる業でしょうか。スピーカーから流れるメロディーを耳にしながら、少しまどろむのもよいものです。
季節は秋から冬へ。年末に向けまたまた忙しい時期を迎えます。「秋バテ」には十分ご注意ください。ご安全に。