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第30回「本物を見よ」

 2020年東京五輪に続き、2025年大阪万博の開催が決定されました。東京五輪後にも国内で巨大イベントが予定されるということは、人・物・金の集中偏在を招きかねないとしても、トータルとして考えれば、日本経済にとっては景気の「気」を熱くして高めてくれる好要因として大いに歓迎されるべきことでしょう。リニア中央新幹線や北陸新幹線大阪延伸の開業には間に合わないものの、五輪・万博の成功を心より願います。
 かつて1964年に東京五輪があり、1970年には大阪万博が催されました。国が勢いよく発展する過程における開催と、成熟期を迎えた段階のそれとでは、それぞれのイベントの位置づけや意味合いが大いに異なってくるのは至極当然のことです。ただ、それらのイベントが時間的にも空間的にも自分の体験し得る状況下で、わかりやすく言えば身近なところで催された、また催されるであろうという「運命の巡り合わせ」に深く思いを致すという点では全く同一であるといえます。
 私は、1970年の大阪万博についてはかすかに記憶が残っています。展示内容に関しては全く覚えていませんが、そこで初めて「鮭のムニエル」なるものを食したということだけが今でも思い出されます。以降、札幌や長野の五輪には出かけず、勿論ソウル・北京・平昌五輪はテレビ観戦でした。万博とて残念ながら愛・地球博以外は訪れたことがありません。悔悟と反省の念で一杯です。
 書籍やテレビ・ネットを通してとか、人づてに聞いたりとかではなく、実際に自分自身でその場所に赴き本物を体験することは本当に素晴らしいことです。昔から「百聞は一見にしかず」とも言われます。未知の風土や人々に遭遇するために旅に出かけたり、貴重な宝物や世紀の傑作を観覧するために博物館や美術館を訪れたり、熱闘の競技を応援するためにスタジアムへ駆けつけたり、コンサートや演劇を鑑賞するために劇場へ足を運んだりすることで我々は本物に触れようとしています。
 以前のこと、御園座の長谷川さんから次のようなお話を伺いました。「是非とも多くの方々に劇場までお越し願いたいのです。それは、歌舞伎であれ現代劇であれ、本物の役者を自分の目で見、生の声を聞くことほど感動する体験は他にないからです」。全く同感です。もっと卑近な例で言うと、街中で芸能人を見かけた時に何故興奮するのかを考えればすぐにわかることでしょう。
 本物に出会う体験。そのためにはいくつかの条件が整わなければならないと常々感じています。その条件とは、①時間、②資金、③健康(体力)、④気(意欲・好奇心)、⑤タイミング(機会遭遇)の5条件で、これらのすべてが揃っていないと残念ながら魅惑的な体験は不可能となるか、制限的なものとなってしまうでしょう。元々が本物に出会えるチャンスなんぞそう滅多にはないという言い方もできるかもしれません。⑤だけで考えてみても、ハレー彗星は76年周期でしか地球に接近しませんし、元号が変わる歴史的瞬間を迎えられるのも稀なことです。
 他方、後世になって、「そんなにすごいことを見たり聞いたりしていたのですね」と言われるようなことに実は日々出会っているのかもしれません。日常の些事も、もしかしたら運命の巡り合わせの結果なのかもしれないのです。街角で無意識のうちにすれ違う人、上の空で聞き流したり見逃したりする事柄……そこにある種の本物が潜んでいるとすれば、我々が逸失したものはあまりにも大きいと言わざるを得ないでしょう。
 平々凡々な毎日に意義を見出すことは極めて大切で、それを一期一会と言ってしまえばそれまでですが、ここではもう一歩踏み込んで、明示的な本物であれ、黙示的な本物であれ、自ら進んで探し出すべく冒険に旅立とうではないかと申し上げたい訳です。何事も静的・受動的ではなく動的・能動的に希求しようということです。それこそが活き活きとした人間の営みそのものであると思うのです。
 そこで上述の5条件です。確かに①から④は、自ら工夫し、蓄え、研ぎ澄ますもので、自己の精進によるしかなく、⑤はある意味「運」によるのですが、しかし「運」もただ天に任せて待っていれば得られるものとは言い切れません。①から④を満たそうと努めつつ、機会に遭遇するために、「聞き漏らすまい、見逃すまい」という緊張感を維持し、しっかりとアンテナを張り巡らした上で、ちょっとした情報や空気の変化すら察知しようと意識(興味関心)を働かせ続けて初めて⑤が満足されるケースを自ら引き寄せることも可能となるのでしょう。その意味で、①から⑤はすべて相互に連関していることがわかります。
 かくして改めて痛感するのは、本物を見聞し、それに触れ、知るということの意味の本質的重大さなのです。この点は、恐らく万人に無条件で納得されるはずでしょう。何故と言って、人間は、余程のひねくれ者でもない限り、イミテーションや又聞きなどでは到底満足できず、納得などしないもので、是が非でも自分自身の経験として本物に接触してみたいという抑えきれぬ本能的欲求を抱く生き物に違いないからです。この現実を否定しようと強弁する人は、恐らくのところ5条件が運悪くコンプリートされていない状況にあるのかもしれませんが、本物への憧憬と言い換えてもよいこの欲求を満たせるのならば、例えそれが極稀にしかなし得ないことだとしても、願いを叶えるべく何としてでも挑戦して然るべきでしょう。それほどに本物の価値は、そうでないものの価値(それが価値と呼べればの話ですが)に比べれば、数段どころか圧倒的に凌駕するのであり、その圧倒的価値に直接触れて感動できることをして、まさに無上の喜びと表現しても何らおかしなことではないでしょう。
 現に我々はその喜びを享受できるチャンスに囲まれています。人間の作為から全く隔絶した自然界の偶然的調和、溢れるほどの創意工夫と情熱が凝縮した有形無形の技芸等々に出会える瞬間を迎えられる好運。それを掴めるぐらいの、つい間近のところに立っていると自覚されるのです。
 有限の人生における稀少なチャンスを逃すのは誠に勿体ないことです。可能な限り本物の輝きを実感し、本物がわかるという境地に近づいてみたいものです。
 さて、平成30年もあとわずかで幕を閉じ、来年はいよいよ新しい元号の時代を迎えることになります。国内外に大きな変化が起きる予感がする一方で、いかなることがあっても変わらない、いや変えてはならないのが「ものづくり」に携わる者の「基本」であり、「スピリット」であると思います。来年もその「スピリット」を忘れずに、よりよい仕事ができるよう祈るところです。
 会社の皆様、またそのご家族の皆様、今年1年間本当にありがとうございました。来年も何卒よろしくお願い申し上げます。よいお年を。ご安全に。

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